月別アーカイブ: 2020年7月

満月の名前と馬簾ひらひら

さ、ガードが入りました。召し上がってください。北米先住民の万能薬エキナセアが世に知られるようになった道のり、続けましょう。お茶を飲みながらお付き合いください。

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18世紀、北米全体がすっかり欧州各国の植民地になるとますます大量の人間(移民だけでなく更なる労働者としてアフリカ人奴隷の輸入)と、作物と動物などなどが4つの大陸を盛んに往来します。当然、病原体も広範囲に移動して疫病は世界規模で流行しました。コレラ、天然痘、スペイン風邪などの感染爆発が繰り返されていた頃、北米の医療は混迷を極めていました。

まず移民がユーラシア大陸から持ち混んできたのは科学的な近代医療と、様々なタイプの伝統医療。そこに新大陸で新たに北米原産の薬草だけを使うトムソン式植物療法が生まれ、どさくさに紛れて胡散臭いニセ医者もたくさん参入します。徐々に淘汰されながら最も人気を集めたのが近代医療と自然療法を統合した医療を目指す折衷派(エクレクティック)でした。その折中派の一人メイヤー医師が最初にエキナセアに注目た人物です。彼はネブラスカ州の(先述のマーロンブランドの出身地と同じ)パウニーという小さな町のドイツ人医師でした。1870年代、世間の白人が先住民を野蛮で下等な人種と蔑むなか、同じ医療を志す者として先住民の知識を高く評価し、敬意を持って彼らに指南を請うたのです。

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ここでちょっと北米先住民が月毎の満月に付けていた呼び名を紹介します。環境や生活習慣は異なりますが、自然と調和し季節を捉えてきた彼らに同じモンゴロイドの血を感じます。(部族によって呼び方が異なるものもあります)

     1月: Wolf Moon(お腹を空かせた狼が遠吠えする候の月)
     2月: Snow Moon(雪が降り積もって狩猟が難しい候の月)
     3月: Worm Moon(みみずが土から顔を出す候の月)
     4月: Pink Moon(ピンクの花が咲く候の月)
     5月: Flower Moon(花が満開になる候の月)
     6月: Strawberry Moon(イチゴが実る候の月)
     7月: Buck Moon(雄ジカの角がどんどん立派に伸びる候の月)
     8月: Sturgeon Moon(チョウザメの漁をする候の月)
     9月: Corn Moon(とうもろこしを収穫する候の月)
     10月: Hunter’s Moon(狩りをする候の月)
     11月: Beaver Moon(毛皮にするビーバーを捕る候の月)
     12月: Cold Moon(寒さが厳しくなり始める候の月)

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 さて先住民にとってエキナセアは、おでき、腹痛、かぜ、そして大自然の中では命取りになる毒蛇や毒蜘蛛の咬傷に効くという万能薬で、根の搾汁を塗ったり根を噛んだり煎じて飲んでいました。メイヤー医師は自ら毒蛇に足を噛ませてエキナセアを塗り、解毒=浄血作用に確信を得ると「メイヤーの浄血剤」として売り出します。途端に折衷派の医師達が使い始め、白人社会に知れ渡りました。

時を置かずエキナセアは大西洋を渡るとドイツで栽培が始まり、ミュンヘン大学が中心となって研究、臨床試験が進められました。抗ウイルス作用や免疫機能に対する作用の有効性や安全性が確認されるとドイツや英国で認められ広まりました。アメリカでサプリメントが興隆するまでの一時期、抗生物質の登場でエキナセア人気が翳ったのに対し、欧州では根強く人気を保ってきました。

検出されている複数の薬効成分(多糖類、アルキルアミド、フラボノイド、カフェ酸誘導体など)が多様な組み合わせによって抗菌・抗ウイルス・抗バクテリア作用、抗炎症作用を発揮し、マクロファージを刺激しリンパ球の働きや、IL-1とIL-6の産生、T細胞の増殖を促したり、と免疫機能に作用と安全性が確認されていています。しかし作用のメカニズムはまだ全容解明に至っていません。風邪、インフルエンザ、上気道感染症、尿路感染症、ヘルペス、むくみ、鼻粘膜の乾燥、カンジダ症などの感染症に有効と使われています。          キク科アレルギーのある方は十分な注意が必要です。            またドイツのコミッションE(薬用植物評価委員会)では、結核、白血病、多発性硬化症、膠原病、HIVのような進行性疾患のある方の服用は禁忌としています。

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エキナセアが初めて日本に輸入されたのは昭和初期、和名は紫馬簾菊(ムラサキバレンギク)。花が下に向かって広がる様子が馬簾(バレン:火消しが振るまといに下がる革製の短冊状飾り)に似ている所から命名されました。奈良県の「平和園」という種苗店から鑑賞用として発売されたそうですが、当時の日本人の美意識では下向きに広がる花が好まれなかったとかで人気が出ず。それどころか、花を毟った後の花床部だけ(ネギボウズ状態)を活花やドライフラワーに使用していたと!なんとも冷たい扱いのままひっそり下積み生活を送ってきました。

ところが21世紀になると日本人の好みも変わってきたのか、メタリックな質感と存在感のある大きな花が好まれ、ガーデニングでも切り花でも(花を毟らないオリジナル姿)でも人気があります。紫だけでなく黄色、ピンク、白などなど色も豊富に出回り、花季も長くて寒さにも強く丈夫で鉢植えもOK、人気にならない理由がないです。

同時に欧米でのエキナセア人気が注目されるようになり、日本でも薬草として栽培を始めた地域があります。かつて養蚕が盛んだった埼玉県寄居町は桑を無農薬栽培をしていましたが、絹織物業の衰微に伴って桑畑をエキナセアに転用しました。毎年7月にはエキナセア祭りが開催されるなど町興しに一役買っています。また鳥取県大山町でも耕作放棄地対策と景観保全を目的にハーブの栽培が検討されていた当時、豚インフルエンザが流行したことからエキナセアが着目され、栽培が始まったそうです。

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この季節はホームセンターやご近所の庭先にもエキナセアの花が咲いていると思いますが、夏のディズニーシーの花壇は多くのエキナセアで彩られていますのでチャンスがあったらぜひ探してみてください。賑やかなディズニーシーでエキナセアを見つけたら、ちょっと北米先住民に想いを馳せてみてください。

ハリネズミの花と侵略の罪 

梅雨明けが待ち遠しい午後、ちょっと雨が上がりましたね。あなただけの中庭で深呼吸してください。さ、ガードを淹れて差し上げましょうか。キク科の植物にアレルギーはお持ちでないですね。今までなら寒くなる前にお勧めしていたお茶ですが、今は免疫力が一年中試されている時、ガードでバックアップしましょう。ではお茶が入るまで免疫機能を調整してくれる根っこを持つエキナセアのお話でもいたしましょう。

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エキナセア(Echinacea spp.)  は北米大陸の中央部、草原の乾いた地域を原産とするキク科バレンギク属の多年草植物です。草丈は30cmから1m程で夏から秋に掛けて直径8cm前後の大きめの濃いピンク色の花を咲かせます。別名のコーンフラワーは花全体に光沢があり、質感がとうもろこしの芯に似ていることから付けられています。中心の盛り上がった花床部に細かな筒状の花が集まっており、その間に無数の尖った鱗片がチクチク生えています。鱗片は下側の額部分にまで続いていて、その様子から属名はエキノス(Echinosギリシャ語でハリネズミやウニの意)とつけられました。花弁に見える一つ一つの花は放射状に開きますが、満開を迎えると下向きになりフラガールのような姿になるのが特徴です。

近似種は9種類ありますが、薬効が確認されているのは現在3種類だけです。エキナセア・プルプレア(E.purpurea葉に丸みがあり、エキナセア・アングスティフォリア(E.angustifolia草丈が低め、エキナセア・パリダ(E.pallidaは花が一際大きく色の薄いのが特徴です。開花時の地上部(葉と茎)と通年の地下部(根茎と根)が薬用に使われますが、地下部からアルコール抽出した液剤(また液剤を使用した錠剤やカプセル)はアレルギーリスクがより低いので、参考にしてください。

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今や全米サプリメント売り上げNo1、「エキナセアは天然の抗生物質」は常識となり、医学会も注目するエキナセアですが、世に知られるようになったのは20世紀になってからです。きっかけは一人のお医者さんでした。そこに至るまでの時代にちょっと遡ってみましょう。

1万年以上の昔、ベーリング海峡がまだ繋がっていた氷河期末期頃のこと、シベリアに到達していたモンゴロイド系の狩猟民族がアラスカ経由で歩いて北米大陸に渡ってきたそうな。彼らは大陸全体に分散し、一部はカリブ海〜南米大陸まで南下して定住しました。それぞれ気候や地形に合わせて豊かな文化を築き、部族間同士の争いは皆無ではないものの、世界で最も平和な暮らしを営んでいた民族といえます。彼らは狩りの道具は持っていましたが武器は持っていませんでした。「人間は精霊が宿る神羅万象と調和して生かされる」という精霊信仰を持ち、空は父、月は祖母、大地は母、四つ足は人々、植物は兄弟姉妹と尊重します。薬草も多く発見し恩恵を大切に使いながら脈々と命を繋いできたのです。

古代はどこの文明でも「医療」と「神事」の区別がありませんでした。先住民の各部族にも薬草に精通した賢者「メディスンマン」が一人居て、首長として部族を統治し、霊能者として精霊に祈り、病気の治療を司ってきました。例えば「スマッジ」と呼ばれる薬草の束を燻して場所と人々を浄化したり、スエットロッジと呼ばれるサウナ小屋の中で薬草の蒸気、香り、煙とメディスンマンの祈りの歌が全ての苦痛を癒しました。彼らは文字を持たなかったので、薬草の知識や賢者の知恵など全て口伝で継承してきたのでした。

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閑話休題。書店で表紙の絵に惹かれて手に取った本は、題名「古井戸に落ちたロバ」(北山耕平/Eagle Hiro著,2011 じゃこめてい出版)、副題は“インディアンのティーチングストーリー・生きることをおしえるはなし”です。近年、彼らの知恵が詰まった言葉は次々と文字に起こされ、育児や人生を導く本として絶賛されていますが、このお話には明快な格言も教訓もありません。たった数分で読み終わるお話ですが、納得。部屋に置いてあるだけでも感じの良い一冊です。

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コロンブスが北米大陸に上陸して以降、15世紀に本格的な大航海時代を迎えるとヨーロッパ各国から巨大な移民の波が押し寄せます。未知の土地で生き延びようとする白人に対し、先住民は作物の栽培法から命を守る生活の知恵、薬草の知識まで惜しげもなく伝授してやました。こうした無償の好意に応えて先住民族の女性と正式に結婚した心ある白人もいましたが・・・彼らを「言いなりになるプライドのない人種」と見下します。そして…好戦的で土地の所有欲の強い白人は先住民が大切にしてきた大地や川を汚し筆舌に尽くし難い殺戮を始めます。侵略者の攻撃に抵抗したり、侵略者同士の抗争に利用され武器を持たされて殺し合いをさせられた挙句に「攻撃的な野蛮人」と侮蔑されるというなんと理不尽な扱い…

ちなみに白人都合で史実を曲げて作られていた西部劇然り、欧米での非白人に対する差別は合法とばかりに堂々と行われていました。1972年『ゴッドファーザー』でアカデミー主演男優賞に選ばれたマーロンブランド(1924-2004)は白人の身で先住民差別に抗議し受賞拒否します。先住民が多いネブラスカ州出身というこで思うところがあったのでしょう。これは西部劇が衰退する契機になりました。彼はトラブルメーカーだったようですが、人種差別運動に生涯協力し続けたというブレない姿勢に拍手!

コロンブス御一行様以降、北米大陸の侵略は着実に進みました。何よりも侵略者達がヨーロッパから持ち込んだ様々な菌やウイルス(特に天然痘や麻疹)は意図的ではなかったにしても正に生物兵器、免疫を持たない先住民を効果的に激減させました。生き残った者も痩せた土地への強制移住、農場や鉱山での過酷な強制労働、キリスト教の強要ときて奴隷化されました。こうして北米先住民は世界の他の植民地同様、人権を剥奪され差別の下で生きることを強いられました。

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あ、お茶のご用意ができてしまいました!続きはお茶を飲みながらいたしましょうか。お付き合いください。