ハリネズミの花と侵略の罪 

梅雨明けが待ち遠しい午後、ちょっと雨が上がりましたね。あなただけの中庭で深呼吸してください。さ、ガードを淹れて差し上げましょうか。キク科の植物にアレルギーはお持ちでないですね。今までなら寒くなる前にお勧めしていたお茶ですが、今は免疫力が一年中試されている時、ガードでバックアップしましょう。ではお茶が入るまで免疫機能を調整してくれる根っこを持つエキナセアのお話でもいたしましょう。

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エキナセア(Echinacea spp.)  は北米大陸の中央部、草原の乾いた地域を原産とするキク科バレンギク属の多年草植物です。草丈は30cmから1m程で夏から秋に掛けて直径8cm前後の大きめの濃いピンク色の花を咲かせます。別名のコーンフラワーは花全体に光沢があり、質感がとうもろこしの芯に似ていることから付けられています。中心の盛り上がった花床部に細かな筒状の花が集まっており、その間に無数の尖った鱗片がチクチク生えています。鱗片は下側の額部分にまで続いていて、その様子から属名はエキノス(Echinosギリシャ語でハリネズミやウニの意)とつけられました。花弁に見える一つ一つの花は放射状に開きますが、満開を迎えると下向きになりフラガールのような姿になるのが特徴です。

近似種は9種類ありますが、薬効が確認されているのは現在3種類だけです。エキナセア・プルプレア(E.purpurea葉に丸みがあり、エキナセア・アングスティフォリア(E.angustifolia草丈が低め、エキナセア・パリダ(E.pallidaは花が一際大きく色の薄いのが特徴です。開花時の地上部(葉と茎)と通年の地下部(根茎と根)が薬用に使われますが、地下部からアルコール抽出した液剤(また液剤を使用した錠剤やカプセル)はアレルギーリスクがより低いので、参考にしてください。

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今や全米サプリメント売り上げNo1、「エキナセアは天然の抗生物質」は常識となり、医学会も注目するエキナセアですが、世に知られるようになったのは20世紀になってからです。きっかけは一人のお医者さんでした。そこに至るまでの時代にちょっと遡ってみましょう。

1万年以上の昔、ベーリング海峡がまだ繋がっていた氷河期末期頃のこと、シベリアに到達していたモンゴロイド系の狩猟民族がアラスカ経由で歩いて北米大陸に渡ってきたそうな。彼らは大陸全体に分散し、一部はカリブ海〜南米大陸まで南下して定住しました。それぞれ気候や地形に合わせて豊かな文化を築き、部族間同士の争いは皆無ではないものの、世界で最も平和な暮らしを営んでいた民族といえます。彼らは狩りの道具は持っていましたが武器は持っていませんでした。「人間は精霊が宿る神羅万象と調和して生かされる」という精霊信仰を持ち、空は父、月は祖母、大地は母、四つ足は人々、植物は兄弟姉妹と尊重します。薬草も多く発見し恩恵を大切に使いながら脈々と命を繋いできたのです。

古代はどこの文明でも「医療」と「神事」の区別がありませんでした。先住民の各部族にも薬草に精通した賢者「メディスンマン」が一人居て、首長として部族を統治し、霊能者として精霊に祈り、病気の治療を司ってきました。例えば「スマッジ」と呼ばれる薬草の束を燻して場所と人々を浄化したり、スエットロッジと呼ばれるサウナ小屋の中で薬草の蒸気、香り、煙とメディスンマンの祈りの歌が全ての苦痛を癒しました。彼らは文字を持たなかったので、薬草の知識や賢者の知恵など全て口伝で継承してきたのでした。

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閑話休題。書店で表紙の絵に惹かれて手に取った本は、題名「古井戸に落ちたロバ」(北山耕平/Eagle Hiro著,2011 じゃこめてい出版)、副題は“インディアンのティーチングストーリー・生きることをおしえるはなし”です。近年、彼らの知恵が詰まった言葉は次々と文字に起こされ、育児や人生を導く本として絶賛されていますが、このお話には明快な格言も教訓もありません。たった数分で読み終わるお話ですが、納得。部屋に置いてあるだけでも感じの良い一冊です。

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コロンブスが北米大陸に上陸して以降、15世紀に本格的な大航海時代を迎えるとヨーロッパ各国から巨大な移民の波が押し寄せます。未知の土地で生き延びようとする白人に対し、先住民は作物の栽培法から命を守る生活の知恵、薬草の知識まで惜しげもなく伝授してやました。こうした無償の好意に応えて先住民族の女性と正式に結婚した心ある白人もいましたが・・・彼らを「言いなりになるプライドのない人種」と見下します。そして…好戦的で土地の所有欲の強い白人は先住民が大切にしてきた大地や川を汚し筆舌に尽くし難い殺戮を始めます。侵略者の攻撃に抵抗したり、侵略者同士の抗争に利用され武器を持たされて殺し合いをさせられた挙句に「攻撃的な野蛮人」と侮蔑されるというなんと理不尽な扱い…

ちなみに白人都合で史実を曲げて作られていた西部劇然り、欧米での非白人に対する差別は合法とばかりに堂々と行われていました。1972年『ゴッドファーザー』でアカデミー主演男優賞に選ばれたマーロンブランド(1924-2004)は白人の身で先住民差別に抗議し受賞拒否します。先住民が多いネブラスカ州出身というこで思うところがあったのでしょう。これは西部劇が衰退する契機になりました。彼はトラブルメーカーだったようですが、人種差別運動に生涯協力し続けたというブレない姿勢に拍手!

コロンブス御一行様以降、北米大陸の侵略は着実に進みました。何よりも侵略者達がヨーロッパから持ち込んだ様々な菌やウイルス(特に天然痘や麻疹)は意図的ではなかったにしても正に生物兵器、免疫を持たない先住民を効果的に激減させました。生き残った者も痩せた土地への強制移住、農場や鉱山での過酷な強制労働、キリスト教の強要ときて奴隷化されました。こうして北米先住民は世界の他の植民地同様、人権を剥奪され差別の下で生きることを強いられました。

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あ、お茶のご用意ができてしまいました!続きはお茶を飲みながらいたしましょうか。お付き合いください。