|
|
* また『ロミオとジュリエット』では、ジュリエットの乳母が「あたしが乳首にワームウッドの汁を塗りつけて昼寝をしていると、ジュリエットお嬢様はそれを嘗めなさって大騒ぎでおむずかり、その日からやっと乳離れされましたですよ」と、語ります。日本では今でも辛子やワサビを使う方法もあるようですが…当時のイギリスではワームウッドが使われていたのですね。 余談ですがこのジュリエットの乳母はシェイクスピア作品のなかでも一番の下ネタ好き。シェイクスピアの戯曲にはご存知の通りユーモア、皮肉、残忍、卑猥な台詞が、比喩や隠語俗語を使って大量にちりばめられています。16世紀、芝居というものが教会で宗教や道徳を説く素人の劇から、役者が演じる演劇へと変化した時代です。テーマは意外に三面記事的な人間臭い悲喜劇で、社会風刺やブラックユーモア、娯楽性を交えた脚本と演出があったからこそシェイクスピアは大人気だったのでしょう。シェイクスピアなんて哲学ぶった小難しい台詞や乙女チックな筋書きが…というイメージで敬遠している方、今更、と云わず松岡和子さんの軽妙な訳で(ちくま文庫のシェイクスピア全集)ぜひもう一度読んでみてください。さらに彩流社の『本当はエロいシェイクスピア 』小野俊太郎著は大人ならではの読み方を教えてくれます。 *** 薬としてのワームウッドは「ワーム=にょろにょろした足のない虫」の名に因み、3500年もの昔から古代ローマで虫下しに使われてきました。その後、腹痛やけいれんを抑える薬、リウマチの痛み止めや分娩促進の湿布薬にも使われました。また葉や枝を燃やした灰の軟膏が毛生え薬、ひげを濃くする薬になったという怪しげな使い方もありました。紀元一世紀に古代ギリシャの医師ディオスコリデスが編纂した薬物誌「マテリア・メディカ 」には強壮・食欲増進・解熱といった薬効が記されており重要な薬草の1つとして扱われてきました。現在英国薬草薬局方では虫下し、健胃薬、胆汁促進薬としての効能が認められていますが、妊娠中、授乳中は禁忌、また長期の服用が禁じられています。
* 中世ヨーロッパでは生活用品として、ノミや蚊、ダニ除けに、干した葉を床に撒いたりベッドに敷いたり、袋に詰めて衣類の防虫剤として利用されていました。これも「ワーム」の名だたる所以でしょう。
* ガーデニングでは茎葉や花から漂う甘い芳香、産毛で銀色に光り深い切れ込みが美しい葉が人気の植物です。またキャベツのモンシロチョウ対策、果樹類のガ対策に効果があるコンパニオンプランツとしても利用できます。ただ地下茎から他の植物の発芽を抑制する物質を分泌するので、同じ土で根を張らせずに鉢植えにして近くに置くとよいでしょう。
***** ワームウッド、といえば切っても切れないのがお酒との縁。ホップが普及する以前はビールの苦味付けに使われていたり、消化促進、食欲増進の食前酒(フレーバードワイン)で有名なベルモット(ニガヨモギのドイツ名wermut、古英語名wermodに由来)が作られています。そしてなんといってもワームウッドの名を広めたのは「アブサンAbsinthe」。19世紀のベルエポックの時代にパリで大流行し、「緑の詩神、禁断の酒、悪魔の酒」などの異名で名だたる芸術家達を虜にしました。このアブサンにまつわる甘く危険なエピソードは、またいつか…
|















