美容マニアのローゼルフラワー

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猛暑日続きの夏でしたが急に気温が下がり、夏の疲れが出ていませんか。きょうはクエン酸とビタミンCたっぷりのルビー色のお茶、ハイビスカスとローズの花弁、蕾、実などを合わせた「クラッシー」を入れましょう。まだまだ暑さが残る午後はアイスで飲むのが最適ですが、今夜のように安らぎを感じる夕べには、ぜひホットで。

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今日の主役は「クラッシー」の赤の主役ハイビスカス。といっても、フラダンスやアロハシャツをイメージする南国に咲く園芸、鑑賞用の大輪の花Hibiscus rosa-sinensi)ブッソウゲ (仏桑華)とは異なる種、ローゼルフラワー(Hibiscus sabdariffa)。小ぶりな白または薄い黄色の花は中心部にむかって濃いワインレッド色、茎は紫色の物が多いです。

ちなみに「ハイビスカス」はエジプトの女神「ヒビス」に由来、という情報は誤りです。(ヒビスという女神はいません) ハイビスカスという単語はもともと、紀元後1世紀の植物学者ディオスコリデスがタチアオイにつけた名前でしたが、多種多様なアオイ科の園芸種群全体を指す総称となってしまいました。

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ローゼルフラワーの原産地はエジプト南部のアスワンで9-11月頃に開花します。赤く熟して肥厚した萼を(苞も一緒に使う場合があります)を乾燥させてお砂糖と一緒に煮た「カルカデ茶」が3000年~4000年も昔から飲まれており、種子や葉は食用、茎は繊維に利用されていました。

ローゼル1

シルクロードを経てアジア諸国にも伝来し、生薬名「洛神花(ロウシエンファ)」として中国や台湾でも薬として、お茶やお菓子にも使われています。

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現在でもカルカデ茶はアフリカ大陸の北西部で日常的に飲まれていて、カイロなど大きな市街地のカフェでもお茶といったらカルカデ茶、特にアルコールを飲まないイスラム系の方たちは朝も昼も夜もカルカデ、結婚式の乾杯もグラスに注がれているのは真紅のカルカデ茶なのです。

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カルカデの赤色はアントシアニン系色素(ポリフェノールの一種)で、強力な抗酸化作用とACE阻害作用があり高血圧症や心臓病に効果があるとされています。梅干しや赤紫蘇と似た味がするのもそのはず、同じ植物酸(クエン酸や、リンゴ酸など)を含んでいます。ミネラルも多く含むので代謝を促し疲労回復や細胞の再生を促す天然のエナジードリンク、美容ドリンクといえます。特にカルカデのクエン酸がローズヒップの豊富なビタミンCの吸収を高めるので、この2つのハーブはゴールデンコンビといわれています。

 

また糖分と一緒に摂ると筋肉に貯蓄型の糖(グリコーゲン)素早く補充できるので、お砂糖と煮るというのは疲労回復の為に理に適った飲み物だといえます。古代エジプト時代にピラミッドを積み上げた労働者たちも、疲労回復と水分補給のためにカルカデ茶が振舞われたといわれていますし、伝説のマラソンランナー、エチオピア出身の裸足の英雄、アベベ選手はマラソン中の水分補給にカルカデ茶を飲んでいたことで有名です。

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古代エジプトの富裕層は男女を問わず美容に関する関心が非常に高く、男性も肌艶を良く見せるオレンジ系のファンデーションを塗り、アイメイクとマニキュアも施すのが普通だったようです。アイシャドウやアイラインは目力を際立たせる効果も狙っていたとは思われますが、緑色のマラカイトは毒性があるので虫除けや魔除けに、碧いラピスは日よけ効果があると信じられ、これらの石を砕いて膠と混ぜて塗っていました。また既にウィッグの技術も進んでおり、男女どちらも様々なヘアスタイルを楽しみ、宝石の髪飾りにも凝っていました。クレオパトラのあの特徴的なボブスタイルもカツラだったという説が有力です。驚くことにエジプト王家の墓から金の糸がたくさん発見され、当時すでに肌の張りを蘇らせる美容整形、金の糸を埋め込むフェイスリフトが行われていたことがわかったそうです。

紀元前69年、この古代エジプト最後のプトレマイオス朝の王女として生まれたクレオパトラⅣ世が比類なきビューティーマニアになるのも当然です。バラの香油やミルク、死海の塩を入れたお風呂を楽しみ、蜂蜜と蜜蝋と砂糖を練り合わせたワックスや青銅の剃刀でムダ毛の処理し、肌や髪、爪はオリーブ油やごま油、バラの香油やアロエの搾り汁で保湿。また美容に良い食品にもこだわり、蜂蜜やローヤルゼリー、デーツ、ルッコラ、ゴマ、豆、モロヘイヤなども各地から取り寄せて積極的に食していましたが、究極は真珠です。クレオパトラはアントニウスと富と権力を競い合う晩餐会で自分のイヤリング、大粒のパールを一粒砕いてワインに入れて飲みほして見せたというエピソード。真珠には美容に効果的なミネラル類や、アミノ酸などが豊富に含まれていますので、この場のパフォーマンスとしてだけでなく日ごろから飲んでいたのかもしれません。

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クレオパトラが美容にもよいカルカデ茶を飲んでいなかったはずはないと思いますが、庶民や奴隷と同じカルカデ茶をそのまま飲んでいたとは考え難いとは思いませんか。もしかすると彼女が何よりも愛した高価なバラやローヤルゼリー、豪奢の極みである真珠の粉を加えたスペシャルドリンクを飲んでいたのかも…と想像が膨らみます。