ラベンダー いつからこんなに

ラベンダー空も気分も鬱々としてしまう梅雨の季節は、ラベンダーの入ったお茶を差し上げましょう。他のハーブ達と混ぜることでちょっと癖のあるラベンダー特有の香りも味も一人目立ちすることなく優しく調和しています。ちょっと蒸し暑い日には濃いめに淹れ、氷の上に注ぎます。

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南フランス、プロヴァンス地方のラベンダー畑は「死ぬまでに見たい世界の絶景」の1つにも挙げらますが、北半球の各地で美しいラベンダーの花が見頃を迎えていることでしょう。

2015年の現在、ラベンダーの香りは身の回りのあらゆる製品に使われていますが20年以上もトイレの芳香No1の座に君臨し続けているそうです。初代の女王キンモクセイのその後を思うとラベンダーの将来がとても不安です。

江戸後期に蘭学者たちによって、気鬱と消化の薬として処方られていたラベンダーが、いつから日本の生活にこれほどまでにおなじみの香料になったのか遡ってみましょう。

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1930年代後半、日本の香料会社2社がほぼ同時期に伊豆と札幌で栽培と精油の蒸留を始めます。精油が国内に出回ることはほとんどなく、両社ともに輸出で大成功していました。しかし1970年代、合成香料の技術進歩と安価な他国製品に押されて日本のラベンダー栽培は衰退します。

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1975年、一面紫色に煙る富良野のラベンダー畑の写真がJR (当時国鉄) のカレンダーに使われると日本離れした風景が一躍話題となり、当時の「北の国から」富良野ブームと相まって、ラベンダー畑は重要な観光資源となります。

その頃、ラベンダーの香りがストーリーの鍵を握る小説『時をかける少女』(筒井康隆著、初出は1965年「中三コース」)が人気になります。この映画化やドラマ化がラベンダーというハーブの名前を若い人たち、男の人たちにも一気に浸透させたのは確かです。

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さて時はさかのぼり、それよりずっと前の時代に「アンの青春」でこの植物の名前に出会った少女達も多かったことと思います。魅力的な初老のミス・ラベンダーが暖炉の棚で薫らせるポプリポット(バラの壺と訳されています)、バラと共に多くのハーブが植えられた庭、ハーブを使ったお料理、全てが想像の世界だった当時、少女たちはどのような香りや風景を思い描いていたのでしょう。もう一度ハーブを数えながら読み直してみませんか。

もう一つ心に残るラベンダーの登場作品を。映画「ラベンダーの咲く庭で」(2004イギリス)もまた中年女性の切ない想いが描かれています。原作はウィリアム・J・ロックの短編集「Faraway Stories」の一編だそうですが、映像に重なる美しい音楽がひときわ印象的でした。

ラベンダーにはいろいろな花言葉が伝えられています。ラベンダーが登場する数多くの小説や映画、それぞれの作者がどの花言葉に着想を得たのか探すのも楽しみの1つです。

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ラベンダーの香りの氾濫とは裏腹に、この香りは苦手、石鹸を口にしているみたいで嫌い、とおっしゃる方も少なくありません。実際、香りの製品には合成香料や、香りの強い種類の精油が使用されています。また残念ながらハーブティーにも香料が足されていることが少なくありません。是非、最も品質が高いといわれる天然のアングスティフォリア種(学名Lavandula angustifola, 真正ラベンダー、イングリッシュラベンダー、コモンラベンダー)が材料として記されているのを確かめ、お試しください。柔らかみのある味と香りは、新しい発見になるかも知れません。