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キンボポゴンが救うマンボクサイ村

レモングラス

秋の足音が聞こえてきた今日この頃、夏の疲れが胃腸に出てきたりしていませんか。今日はレモンの香りがさわやかなシトラシーを淹れましょう。リフレッシュ効果ややる気を起こさせてくれるこのお茶にはレモングラスやジンャーも含まれていて、胃腸の働きを整えてくれる効果もあるので夏バテ気味のおなかに最適です。ではお茶を待つ間、この熱帯の草レモングラスにまつわるお話にお付き合いください。

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 レモングラス(Cymbopogon citratus)はイネ科の多年草で、高さ1mほどの大きな株に成長します。属名キンボポゴンは ギリシャ語のcymble(舟)とpogon(髭)の合成で、髭の生えている舟のような花苞の形に由来します。

最近日本でもトムヤムクンやグリーカレ ーといったタイ料理ですっかりお馴染みのハーブになりましたが、アジア、アフリカ、インドの熱帯地域や中米の島々などにも自生しているので様々なエスニック料理に必ず使われているハーブです。「レモングラスの香りで熱帯の旅を思い出す」という方も多い所以です。稲に似た硬い葉は食べられませんが、細ネギのような茎部はシャキシャキした食感も良く、薬味として食べることができます。20世紀の初めまでは一括りでレモングラスと呼ばれていましたが現在では香りの強いインド、スリランカ、東南アジア産の東インド系(C. flexuosus) と、食用向きの西インド系(C. citratus)と区別されています。

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 アジア諸国で古くから薬として利用されてきました。インドでは『 チューマナ・プールー(赤い茎の草) 』 という名前で知られ、古代医療アーユルヴェーダでは伝染病・熱病・発熱・吐き気などの治療薬、母乳の出をよくする作用で数千年前から利用されてきました。漢方では頭痛や胃腸の不調、自律神経のバランスを整える働きの生薬として使われてきました。さらに最近の学会発表によると、主要成分であるシトラールに血圧降下作用や血小板凝集抑作用のあることが明らかにされました。

 またカンボジアには、レモングラスを中心としたハーブとスパイスが使った「チュポン」というハーブサウナがあります。韓国のよもぎ蒸しに似ていますが、もともとクメール医療(インドのアユールヴェーダと中国の漢方が融合された伝統医療)において産後女性のに施された療法の1つです。女性機能の回復だけでなく新陳代謝を高めて疲労回復や心身強壮まで様々な効果が期待できますので、ご縁があれば是非。

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 精油もインドから中国まで広い地域で薬として用いられてきました。優れた殺菌作用から水虫やニキビなどにも使われますが、刺激が強いので直接肌につける時は低い濃度から試すことをお勧めします。

 アロマセラピー効果としてはリフレッシュ、集中力アップ、タバコ臭やペット臭の消臭に効果的です。現在レモングラスの精油は食品から生活用品、香水や化粧品まで、香料業界では最も多く使われている精油の一つです。レモンの香はもちろん、面白いことにスミレの香りの合成に不可欠な精油だそうです。別名インドバーベナとかインドメリッサともよばれるため、稀少で高価なレモンバ―ベナ(Lippia citriodora)やレモンバーム(Melissa off.) の精油と混同しないよう注意が必要です。

 さて「レモングラスで蚊避け」という説、実は期待できません。蚊が最も嫌う成分、シトロネラールを多く含む精油は レモンユーカリ(Eucalyptus citriodora)やコウスイガヤ=別名シトロネラ(Cymbopogon nardus)ですレモングラスの主成分はシトラールで、シトロネラールは少量しか含まれていませんので悪しからず。

 

 

 

 

 

もう一つ。レモングラスが植えてあると猫除けになるという巷の噂、これも期待できません。それどころか猫も犬もレモングラスの葉を好んで食べます。ペットを飼っている方はお気づきと思いますが、犬や猫は本能的知恵で消化できない異物を吐き出したり胃もたれ解消の為に草を食べたります。彼らにとっては市販の猫草(オーツ)だけでなく、身近にある葉先が尖っているイネ科の植物ならレモングラス、ササ、エノコログサでも好んで口にしますので悪しからず。ただし精油は危険ですのでペットが口にしたり体につけたりすることがないようにお気を付けください。

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 レモングラスを日本の温帯地域で栽培する場合、9月中に葉を刈り込んでしまって根元を箱や鉢でカバーし越冬させるのがお勧めだそうです。刈り取った葉はお茶にして飲むもよし、籠を編むもよし、短く束ねて棒状に編んで犬や猫の歯みがき用おもちゃになるカジカジ棒やウサギさんに好評のおやつ棒を作るもよし、太目に編んでクリスマスのリースやお正月のしめ縄をつくるもよし、手仕事好きな方、いかがでしょうか?

 熱帯地域ではレモングラスは雑草のごとくどこでも育つ植物ですが、つい先日レモングラス栽培に関わる小さな記事に目が止まりました。フィリピンの砂糖壺といわれる西ネグロス州の中にありながらサトウキビ栽培に適さない為、長年貧困に悩まされてきたマンボクサイ村という村があります。そこで日本政府が「草の根・人間の安全保障無償資金協力」として栽培作物を丈夫で需要も見込めるレモングラスに転換させ、精油の蒸留施設や運搬車両を援助し、いよいよ2016年8月に村民による運営が始まったというニュースでした。レモングラスを使った取り組みが成功するよう心から応援したくなりました。

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 さて属名キンボポゴンとはオガルカヤ(雄刈茅)属を意味し、この刈茅とは屋根を葺く大型のイネ科植物の総称です。実際ベトナム北部では豊富に生えているレモングラスで屋根を葺いている村があるそうです。日本と同様に葺き替えは村人総出の共同作業、お礼はささやかながらもご馳走で宴が張られると聞き、農耕民族として親近感が湧きました。

 屋根といえば所変わってアメリカはフロリダ、ディズニー・ワールドの一画にある商業地区(ディズニースプリングス)に2014年、緑の屋根が素敵なスターバックスが完成しました。この建物は米国グリーンビルディング協会が優れたエコシステムとして認定しており、屋根にレモングラスが植えられているのだそうです。店内のコーヒーの出し殻が肥料して使われ、緑の屋根は雨を吸収して湖水域の水害を減らす助けとなり、ヒートアイランド現象や温室効果ガスを軽減し酸素も提供するという良いこと尽くめ。今や屋根のレモングラスに鳥やトンボ、蝶が生息しているのだとか。さすが刈茅の仲間、レモングラスは現代版茅葺屋根として活躍しているのです。

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 最後はちょっとお酒のお話。このあたりが原産地と思われているカンボジアでは、昔からレモングラスの葉を入れた素焼きの鉢に、砂糖ヤシの樹液を発酵させたお酒を入れ、爽やかな香りを移して飲む習慣があるそうです。今では世界中のバーでラムやジンのレモングラス・ティー割りが供されています。もちろん焼酎や泡盛もありですが、特にハーブを使ったジンとは相性が良いようです。冷えたグラスにレモングラスをマドラー代わりに挿したギムレットなど手にすれば、気分は一気に熱帯のリゾートホテル!

ビール好きにはその名もずばり「レモングラス・ルアウ」なんてレモングラスを使ったハワイのコナビールはいかがでしょ。

まだまだ行く夏が名残惜しい気分の夜は、こんなお酒で一杯というのもまた一興。